「働き方ウェルビーイング・ラボ」6

「働き方ウェルビーイング・ラボ」6

コミュニティウェルビーイングについて

前回のブログでは、アメリカのギャラップ社(世論調査研究所)が提唱するウェルビーイング(Well-being)の5つの要素のうち、「フィジカルウェルビーイング」についてご紹介しました。今回は、その5つの要素のうち5番目であるコミュニティウェルビーイングについて、さらに詳しくご紹介します。

コミュニティウェルビーイングの定義と重要性

コミュニティウェルビーイングとは、自分が所属するコミュニティ内での幸福感や充実感を指します。
具体的には、家族や友人、職場の同僚、学校の仲間、町内会や地域活動のメンバーとの良好な関係を築くことです。さらに、地域活動に参加することで、他者とのつながりを感じたり、自己の幸福度を高めたりすることも含まれます。
コミュニティに属し、そこで得られる充実感やつながりを通じて、良好な人間関係を築ける状態が理想とされています。

日本における伝統的なコミュニティの特徴

かつての日本では、近所の人や地域の住民同士が親しく交流し合うことが当たり前でした。農村や都市部では、地域の人々が協力してお祭りや行事を開催し、困った時には互いに助け合うことで強い結束力を育んでいました。農村部や都市部を問わず、住民同士が日常的に話をしたり、互いの暮らしに自然と関わり合うことで、地域全体に団結心が生まれていたのです。このような人間関係は「村社会」とも呼ばれ、日本ならではの文化として根付いていました。

しかし、近年では高層マンションや集合住宅が増えたことにより、住民同士が接する機会が少なくなり、地域内でのつながりが薄れてきています。たとえば、隣の家の人を知らない、地域の行事に参加しないといったケースが増えており、その結果、地域の一体感や活力が失われつつあります。このような状況は、災害時や緊急時の助け合いが難しくなるほか、空き家の増加や治安の悪化といった問題にもつながる可能性があります。

新しい形の「まちの居場所」

近年の日本では、地域に開かれた新しい「まちの居場所」が増えています。
地域における「まちの居場所」は、地域に暮らす多様な人々が集い、つながりを深めることで、コミュニティウェルビーイング(地域全体の幸福感や充実感)を向上させる大切な役割を果たしています。
子育て支援や高齢者の交流、若者や子どもの居場所づくり、障害者福祉に関する取り組みをご紹介します。

・子育て支援

親子サロン
親子で楽しめる絵本読み聞かせやベビーマッサージのワークショップを開催。

子育て支援センター
地域の親たちが交流できる場として、育児相談やプレイルームの提供。

・高齢者の交流・福祉

健康麻雀
高齢者が集まり、勝敗にお金をかけない「健康麻雀」を通じて交流と認知症予防を促進。

シニアヨガ
地域のコミュニティスペースで、初心者向けのヨガ教室を開催し、体力作りと仲間づくりを支援。

・若者・子どもの居場所

子ども食堂
無料または低価格で食事を提供する場で、食事だけでなく学習支援や遊びの場も提供。

学習支援スペース
地域のボランティアが運営する場所で、経済的に厳しい家庭の子どもたちに無料で学びの機会を提供。

・障害者福祉

アートワークショップ
障害を持つ人々がアート作品を作る活動を通じて、表現力を育み、地域のイベントで作品を発表。

就労支援カフェ
障害者が働くカフェを運営し、働く場と地域住民との交流の場を提供。

海外でのサードプレイスという取り組み

「サードプレイス」とは、家庭(ファーストプレイス)や職場(セカンドプレイス)以外で、気軽に集まり交流できる場所を指す概念で、1980 年代に、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグが提唱しました。
「家庭や職場での役割から解放され、一個人がくつろげる場」として「サードプレイス」を位置づけています。この考え方は、地域コミュニティの形成や社会的つながりを強化する場として、海外でさまざまな形で実践されています。

・コーヒーハウス(アメリカ、ヨーロッパ)
アメリカのスターバックスやヨーロッパの地元カフェは、ただの飲食店ではなく、友人や家族と会話したり、読書や作業をしたりする「サードプレイス」として機能しています。

・パブ(イギリス)
イギリスのパブは、単なる飲食を提供する場ではなく、地元の人々が集まり、談笑したり、スポーツ観戦を楽しんだりする「サードプレイス」として親しまれています。

・ライブラリーカフェ(北欧)
フィンランドの「Oodi」やデンマークの「DOKK1 Library」では、読書や学習に加え、子どもの遊び場や、小さな演奏用のステージ、コ・ワーキングスペースもあり、さまざまな年代が交流できます。

SNSとコミュニティウェルビーイング

コロナ禍では、SNSが孤立を防ぎ、コミュニティウェルビーイングを向上させる有効なツールであることが示されています。しかし、使い方を誤ると、他人との比較や情報過多で自己肯定感が低下するリスクもあります。適切に活用し、バランスを保つことが重要です。

SNSが有効な理由

・社会的つながりの強化
SNSは地理的な制約を超えて、多様な人々とつながる機会を提供します。例えば、遠く離れた家族や友人と簡単に連絡を取れることで、孤独感が軽減されることがあります。

・サポートコミュニティの形成
SNSは、障害者、LGBTQ+、シングルマザー、難病患者など、現実世界では孤立しがちな人々が集まり、支え合う場として機能します。

・表現の場としての役割
SNSは自己表現の場を提供し、自分の考えや感情を発信することで、ストレス解消や自己肯定感の向上につながることがあります。

SNSが有害な理由

・孤立感の増加
SNSでの交流が主になると、実際の対面コミュニケーションが減少し、孤立感を強く感じます。SNS上の交流は浅いものが多いため、一部の人にとっては満たされないと感じる場合があります。

・比較によるストレス
InstagramやTikTokでは他人の「成功」や「幸せな瞬間」を見る機会が多く、それが自己評価の低下や不安を引き起こす要因になることがあります。
特に若い方は、同世代や他人からの評価に敏感なため、SNSの「いいね」やコメントなどが自己価値を感じる尺度として働くことがあります。

・誹謗中傷やネガティブな経験
匿名性を利用した誹謗中傷やいじめがSNS上で発生しやすく、それが精神的ストレスやトラウマを引き起こす場合があります。


シリーズ最終回となる今回は、コミュニティウェルビーイングを通じて、つながりや地域との関わりがどのように私たちの生活を支え、より良い未来を築いていけるかをご紹介しました!

これまで、企業の具体的な取り組み事例をご紹介してきましたが、今回は残念ながら事例をご紹介できませんでした。
個人の幸せ(ウェルビーイング)については、多くの人が理解していると思います。しかし、地域社会全体の幸せ(コミュニティ・ウェルビーイング)となると、企業がどのように考え、行動すれば良いのか、まだはっきりとしたイメージを持っていない企業が多いようです。
今後、多くの企業が地域社会の幸せづくりに取り組み、より良い社会の実現に貢献してくれることを期待しています。

これまで「働き方ウェルビーイング・ラボ」では、キャリア、ソーシャル、フィジカル、ファイナンシャル、そして今回のコミュニティウェルビーイングに至るまで、さまざまな側面からウェルビーイングについてご紹介をしてきました。それぞれのテーマが独立しているように見えても、実際には互いに密接に関わり合い、私たちの日々の幸福感や充実感に深く影響を与えています。

「ウェルビーイング」という視点を大切に、日々の小さな行動や選択が地域や社会全体のウェルビーイングを向上させる一歩となります。
このシリーズが、皆さまの日々の生活やキャリアを豊かにする一助となれば幸いです。
ご覧いただき、ありがとうございました。